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1969年7月20日に月面につけられた足跡(C)NASA

 日本人宇宙飛行士が早ければ4年後、月面に降り立つことが決まった。日本人にとって「偉大な一歩」となるだろう。ただ、月のことを知りたければ無人探査機を打ち上げた方が安くて安全。なぜ、膨大なお金をかけて月に行かなければいけないのか。日本の宇宙政策のご意見番にあたる宇宙政策委員会で委員長代理を務める常田佐久さんに聞いた。

日本人飛行士2人が月面へ

 人類が月面に足を踏み入れてから約半世紀。再び月面着陸をめざす米国主導の「アルテミス計画」で、日本人宇宙飛行士2人が月面に降り立つことが今年4月、日米両政府で合意されました。宇宙飛行士や識者らが展望や課題を語るインタビューをお届けします。

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 ――日本人2人が月面へ。率直にどう思いましたか。

 アルテミス計画において日本人の着陸が米国人以外では初めてとなることも合意した。これまでも米航空宇宙局(NASA)は、協力相手である日本と欧州のバランスを重要視してきたが、欧州宇宙機関(ESA)も重要な貢献をする中で、欧州の反応が気になるほど内容のある約束だ。

 協力はギブ&テイクの面がある。月面を走る探査車(ローバー)を日本が供給する貢献度が認められたのです。

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日本の宇宙政策のかじ取り役である常田佐久・宇宙政策委員長代理=本人提供

様々な働きかけ、最後はホワイトハウスが……

 ――どんな交渉があったのでしょうか。

 昨年12月、宇宙政策委員会の後藤高志委員長がホワイトハウスで米国家宇宙会議のシラク・パリク事務局長(大統領副補佐官)と面談した際には私も同席した。

 我々も含め、様々なチャンネルで日本は働きかけたと思うが、最後はホワイトハウスの判断だったのではないか。日米関係の重要性、国際宇宙ステーション(ISS)での日本の貢献など多角的に検討した結果だろう。

 ――当初、日本側は3人と伝えたが、米国側は1人と返答してきたようです。

 まず早ければ2028年に日本人飛行士1人が着陸する。次に、月に運ばれたローバーの運転手としてもう1人。2人は合理的な人数でしょう。

 ――日本人2人決定は、ローバーを提供する「見返り」という位置づけです。

 ローバーは内部が空気で満たされているため、宇宙服ではなく普通の服で暮らす居住空間としても使える。

 NASAのビル・ネルソン長官は昨年2月、来日して後藤委員長と会った際、ローバーに大きな期待をかけていた。その後、米国で会った際も同様の期待を口にしていた。

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NASAのビル・ネルソン長官=2023年2月

 ネルソン長官は、議員出身だから発言が明解で迫力がある。米国は自分たちでローバーをつくるつもりはない。日本がつくらないといけない。JAXA(宇宙航空研究開発機構)もギアが入ったと思う。

 日本への期待の高さを感じ、光栄に思う。月着陸はアポロ計画の二番煎じだという指摘もあるが、月に行けば次は火星だ。評価されなければ、こんなチャンスは来ない。

「何をバカなことを言っているんだ」と一喝

 ――日本人が今、月に行く意味は何でしょうか。

 数年前は「日本人を月に立たせるためにアルテミス計画に参加するんだ」という雰囲気だった。私の前任の宇宙政策委員長代理だった松井孝典さん(23年死去)は当時、「何をバカなことを言っているんだ」と一喝していました。

 月面着陸は人類史的意義があ…

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